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研究内容

植物ゲノム解析分野概要

 「植物ゲノム解析分野」は、1999年9月1日付けで、名古屋大学並びに国立大学における植物ゲノム解析研究の中核的研究拠点となることを目指して、主に植物のゲノム学を推進する目的で本学遺伝子実験施設に創設されました。常勤構成員は、教授(石浦正寛)、准教授(杉山康雄)、准教授(井原邦夫)の3名が部門発足の秋に大学院理学研究科生命理学専攻(生物学)からそれぞれ異動してきました。その後2009年3月に助教(松尾拓哉)1名が加わりました。また、本部門の研究教育活動を強力に支援していただく目的で客員教授1名(大阪大学大学院生命機能研究科・教授 難波啓一)が設置されています。諸般の事情により、創設年度内には研究室を確保することができず、実際の研究室整備と研究活動の立ち上げとを2000年の4月に開始し、2002年の6月に研究室整備をほぼ完了することができました。今後の本格的な研究教育活動の進展が期待されています。現在、部門の運営はグループ制で行っています。 

 植物の葉緑体と起源を同じくする藍色細菌(藍藻)で全ゲノム配列が次々と決定され、モデル植物であるシロイヌナズナの全ゲノム配列も2000年12月に決定され、イネのゲノム配列決定も2002年にほぼ完了しました。今後のゲノム学研究の推進にはこれらのゲノム情報をいかに有効に活用するかが極めて重要で、生物学の研究戦略も大きく変わりつつあります。当部門では、分子遺伝学を基盤としてゲノム学の立場から主に植物の未解明で生物学的に重要な現象を分子レベルで解明することを目指しています。興味深い生命現象にかかわる遺伝子群を網羅的に特定し、ゲノム学的手法を駆使してそれらの遺伝子機能を網羅的に解析し、次に分子遺伝学的に詳細に解析し(分子遺伝学・ゲノム学)、さらにそれらの遺伝子産物であるタンパク質の機能と構造とを網羅的に解析して(生化学・タンパク質科学、具体的には、生理機能の分子遺伝学的・生化学的解析、電子顕微鏡観察によるタンパク質複合体の立体構造再構成、X線結晶構造解析、NMRなど)、生命現象を原子レベルで解明し、最終的には生命現象の試験管内での再構成にまで進むことを目指しています(生物物理学)。

 部門開設以来、具体的には次の7点の研究を進めています。1)好熱性藍色細菌のゲノム分子生物学(石浦)、2)生物時計と光周性の分子機構(石浦)(松尾)、3)生物発光を利用したリアルタイム測定法の開発(石浦)、4)新規DNAチップの開発(石浦)、5)植物ミトコンドリアゲノムの構造と機能(杉山)、6)古細菌のゲノム分子生物学(井原)、7)生体ナノマシンの動作原理の解明(難波啓一)。各研究者の研究内容の詳細はそれぞれの研究者の個人ページをご覧下さい。

 学部及び大学院の協力講座として、理学部生命理学科及び大学院理学研究科生命理学専攻の教育を担当しており、卒業研究生や大学院生を受け入れています

研究内容

 石浦グループは、「生物時計の分子機構を原子レベルで解明する」をキャッチフレーズに掲げて「生物時計と光周性の分子機構の解明」のための研究を精力的に進めています。そして研究室のモットーは以下の通りです。

1.人のやらないことをやる。
2.大きな仕事に繋がるすき間(ニッチ)を探す。
3.材料、方法、概念のいずれかにおいて独創性を発揮する。
4.測れないものは装置や手法を自作したり工夫したりして測れるようにする。
5.模倣する場合には、模倣以上にするまで徹底的に行う。
6.不慣れなことは一流の研究者の指導を仰ぐ。


1.好熱性藍色細菌のゲノム分子生物学


 藍色細菌の全ゲノム配列はかずさDNA研究所の田畑らによって世界に先駆けて決定されました。さらに複数種の藍色細菌の全ゲノム配列を決定しつつあります。これらのゲノム配列情報を研究基盤とすることにより、今や日本の藍色細菌の研究は世界の最先端にあるといっても過言ではないでしょう。藍色細菌は葉緑体と起源を同じくするバクテリアであり、通常のバクテリアにはない「植物的な性質」をも兼ね備えており、「植物細胞や葉緑体のモデル生物」と捉えることができます。Synechococcus sp. strain PCC 7942やSynechocystis sp. strain PCC 6803などの常温性藍色細菌では、遺伝子ターゲッティングなどの分子遺伝学的な手法を駆使することにより、ゲノム上の遺伝子を思い通りに操作することができます。私たちは、人為的に生物発光系をゲノムに組み込んで任意の遺伝子の発現をリアルタイム測定することにより、目的の突然変異体を分離し、さらに原因遺伝子をクローニングする手法を生物時計遺伝子で確立しています(本学大学院理学研究科生命理学専攻の近藤氏との共同開発; Kondo et al., 1994, Science 266:1233-1236; Ishiura et al., 1998, Science 281:1519-1523)。
 しかしながら、常温性藍色細菌はタンパク質の解析には最適の生物材料とは言えません。一般にタンパク質の研究を効率良く進めるためには熱安定性に優れた耐熱性タンパク質の活用が極めて有効であることが知られています。幸いにも温泉に生息する好熱性藍色細菌 Thermosynechococcus elongatusT. vulcanusとが日本で分離され、主に日本で研究されてきた歴史があります。また、かずさDNA研究所の田畑らによってT. elongatusの全ゲノム配列が決定されました。そこで「植物ゲノム解析分野石浦グループ(以下、石浦グループと略称することにします)」では、これらの好熱性藍色細菌を生物材料に用いて、分子遺伝学やゲノム学(DNAチップなど)、生化学の諸手法、そしてタンパク質立体構造解析やプロテオミクスなどを含むタンパク質科学の諸手法を駆使して、生命現象を分子レベルで詳細かつ総合的に解析できる実験系の開発を進めてきました。現在、「最強の実験系」が実現しつつあります


2.生物時計と光周性の分子機構


1)好熱性藍色細菌   話題

 生物時計と光周性の研究を大テーマの一つに設定しています。生物時計の分子機構の研究は、ショウジョウバエやアカパンカビ、藍色細菌(Ishiura et al., 1998, Science 281:1519-1523)で進んでおり、生物時計の基本原理は「時計遺伝子産物による時計遺伝子発現を24時間周期に制御する正と負の多重フィードバック自動制御である」ことが確立しています。近年、哺乳動物でもショウジョウバエの時計遺伝子や時計関連遺伝子の相同遺伝子が見つかり、ショウジョウバエとの比較で哺乳動物の生物時計の分子機構の解明が急速に進みつつあり、現在では、動物には共通の生物時計(因子と分子機構)が存在すると考えられています。アカパンカビや藍色細菌の時計因子はショウジョウバエや哺乳動物の因子とは全く異なっていますが、構成因子は異なっていても生物時計の分子機構そのものはすべての種に普遍的と考えてよいので、生物時計の分子機構の解明には、最も単純(バクテリアであること)で最も効率の良い(人為生物発光リズム系及び自動測定装置の開発)藍色細菌の実験系が他のどの実験系よりも優れています。
 石浦グループでは、「生物時計装置」を構成する個々の時計タンパク質及び時計関連タンパク質に焦点を合わせて、「時計機構の素過程」(これらのタンパク質の生化学反応と構造変化)を詳細に解析することにしました。熱安定性に優れた耐熱性タンパク質を生物時計の研究に活用するために、好熱性藍色細菌T. elongatusT. vulcanusとから時計遺伝子クラスターkaiABCと一連の時計関連遺伝子群をそれぞれ大腸菌にクローニングし、遺伝子産物である各タンパク質を大腸菌で大量生産し、高純度のタンパク質を大量調製することに成功しました。現在、各Kaiタンパク質やその複合体、それらの各存在状態の構造と機能を、生化学、生物物理学(一分子計測など)、構造生物学(電子顕微鏡解析やX線結晶構造解析、NMRなど)の手法で解析しています。また、タンパク質の動的構造変化はESRやNMRなどの物理化学的な手法で追跡しています。これまでに、KaiA C末端時計発振ドメインとKaiBのX線結晶構造と、KaiC 6量体の立体構造(電子顕微鏡像の単粒子解析)を解明しました。一連の時計関連タンパク質の結晶化や「生物時計の試験管内再構成」も進めています。また、T. elongatusにおいて、遺伝子移入系と遺伝子操作系を確立し、生物発光リズム系を開発しました。これは、好熱性生物にも生物時計が存在することを示す初の例です。このようにT. elongatusの実験系は、時計分子装置の構造と機能を原子レベルで詳細に研究できる唯一の実験系です。in vivoin vitroにおけるリズム機能を解明し、「生物時計の分子機構を原子レベルで論じる」日もそう遠くないと確信しています。

2)シロイヌナズナ

 高等植物では、日長(日照)時間が生長、発生、細胞分化などの調節に極めて重要な働きをしており、この現象を「光周性」と呼んでいます。光周性は生物時計に裏打ちされていると考えられています。残念ながら、藍色細菌に存在する生物時計遺伝子クラスターkaiABCは植物細胞の時計遺伝子候補でしたが、全ゲノム配列が決定されているシロイヌナズナのゲノムには存在しませんでした。多分、原始藍色細菌が真核細胞に取り込まれて、葉緑体に進化してゆく植物細胞化の過程で、kaiABCは藍色細菌ゲノムから失われてしまったのでしょう。植物の時計の本体はまだ未確定ですので、植物の生物時計と光周性との分子機構の解明はほとんど未開拓の今後の重要課題です。この問題を解決するためには、先ず時計の本体と光周性とに関与する因子をそれぞれ分子遺伝学的に網羅的に同定することが必要です。アメリカ合衆国のKay博士らは、シロイヌナズナにおいて「人為的生物発光リズム系」を開発し、発光リズムに異常を示すリズム変異体を分離し、さらにそれらの原因遺伝子のクローニングにも成功しています。しかしながら、彼らの研究では変異体のスクリーニングに用いたレポーター遺伝子の種類がCAB2遺伝子に限定され、かつ変異体スクリーニングの規模が小さすぎることなどが原因して、時計本体の確定には至っておりません。
 石浦グループは、2001年より花成遺伝子GIFTCOなど種々の遺伝子をレポーターに用いて大規模変異体スクリーニングをシロイヌナズナで行い、無周期変異体を含む多種多様なリズム変異体を網羅的に分離しました。そして、無周期変異体の原因遺伝子として植物の時計遺伝子PHYTOCLOCK 1 (PCL1)のクローニングに成功しました。PCL1はイネやタバコなど高等植物一般に存在しています。PCL1の解析を進めると同時に、他のリズム変異体の原因遺伝子の網羅的クローニングを進めています。

3)クラミドモナス  話題

 クラミドモナスは単細胞性半数体の緑藻の一種であり、寒天平板上でコロニーを形成し、遺伝学的解析は容易です。半数体であるため、突然変異体の分離も容易です。このような優れた特性から、クラミドモナスは「Green yeast」とも称されてモデル植物の一つともなっています。細胞の凍結保存法の開発や高効率の遺伝子移入法の開発、Expression sequence tag (EST)の網羅的解析、整列コスミドクローンの整備、DNAチップの開発などのクラミドモナスの分子遺伝学、ゲノム学の研究基盤が日本の若手の活躍により確立されつつあります。また、クラミドモナスは1個の核、1個の葉緑体、複数個のミトコンドリアを持っており、これらの各細胞器官のゲノムにそれぞれ遺伝移入できる唯一の生物です。そのため、「核、葉緑体、ミトコンドリアの三ゲノム間での遺伝子発現制御の相互作用」を研究する上で格好の材料と言えるでしょう。クラミドモナスは生物時計の研究材料としても用いられてきており、概日性リズムの変異体も報告されています。ところが残念なことに生物時計の運行を容易に計測する手段が欠けています。
 そこで石浦グループは、藍色細菌やシロイヌナズナで成功している「人為的生物発光系」の組み込みをクラミドモナスで試みました。核と葉緑体とに発光遺伝子を組み込み、有意の生物発光を観察することに成功し、葉緑体においては、「生物発光リズム系」の開発に成功しました。現在、生物発光リズム系を用いて大規模変異体スクリーニングと原因遺伝子の網羅的クローニングを精力的に進めています。
 これと並行して、核、葉緑体、ミトコンドリアでDNAチップを開発し、発現リズムを示す遺伝子群の網羅的解析を進めています


3.生物発光を利用したリアルタイム測定法の開発


 植物細胞の生物時計の運行を生物発光として連続的に自動測定する生物発光測定装置を二種類開発しました。試料は96穴マイクロタイタープレートの各穴に入れ、フォトマルで測光します。これら二種類の装置はそれぞれ20枚と10枚のプレートを同時に計測できますので、一回の測定における処理能力はそれぞれ、およそ2,000試料と1,000試料です。前者の装置1台と後者の装置3台を開発しましたので、これらの装置をフルに稼働すれば、一度の実験で約5,000試料が処理できることになります。また、大量の生物発光データをリアルタイムに視覚化して詳細な解析を行うためのプログラムの開発も行いました。
 生物発光測定装置の利用は生物時計の研究に限定されるものではなく、広くゲノムの機能解析の手法として、DNAチップとは相補的な汎用性があります。現在、この目的に適う一度に2万個体を測定できる「ハイスループット生物発光測定装置」、これまでの装置よりも10倍高感度な「高感度生物発光測定装置」の開発を進めています。これらの装置の開発は科学技術振興機構(JST)「先端計測分析技術・機器開発事業 機器開発プログラム」として進めています


4.新規DNAチップの開発

 ゲノム配列が決定されている生物で全遺伝子の発現を網羅的に解析する手法として、DNAチップ法が開発されています。この手法は極めて強力ですが、最大の欠点は価格があまりにも高過ぎることです。そこで石浦クループは高性能のオリゴDNAチップを安価にカスタム作製する手法を開発しました。このDNAチップを実用化し、好熱性藍色細菌T. elongatusのカスタムDNAチップを作製して、生物時計の研究に活用しています。


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