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生物材料・生物発光測定装置解析プログラムタンパク質の立体構造
生物材料
シロイヌナズナArabidopsis thaliana
 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、アブラナ科に属する双子葉植物です。秋に発芽して越冬して春に開花する冬季一年生植物であり、長日性を示します。一回の世代交代に要する時間が1.5〜2ヶ月間であり高等植物としては短いこと、土栽培(左の写真)と無菌的栽培(写真の右上)の双方が容易に可能なこと、高等植物としてはゲノムサイズが小さいこと(テロメアやセントロメアなどの特殊な染色体構造部分を除くと約125Mb)、植物体の大きさが比較的小型であり培養スペースをあまり必要としないこと、などの多くの利点から、モデル高等植物として遺伝学・生理学の研究に広く使用されています。多種多様な変異体の存在、様々な遺伝子操作法の開発、ゲノムプロジェクトの完了、膨大なEST資源、T-DNA・トランスポゾンタグラインの拡充、などの植物バイオテクノロジ−に必要な技術・情報が高度に整備されています(「TAIR」ホームページへ)。ホタルルシフェラーゼ遺伝子を生物発光レポーターに用いることで概日リズムのリアルタイム測定も可能であり(詳細はこちら)、生物時計研究においてもモデル高等植物として利用されています。我々は、独自に生物発光レポーター株と「生物発光リアルタイム測定・スクリーニングシステム」(後述の「生物発光リアルタイム測定・スクリーニングシステム」参照)を開発し、「生物発光リアルタイム測定法」(後述の「生物発光リアルタイム測定法とは?」参照)を用いてリズム変異体を網羅的に分離しました。そして変異体の原因遺伝子として時計遺伝子・時計関連遺伝子の網羅的クローニングと機能解析を進めています。最近、時計遺伝子PHYTOCLOCK 1 (PCL1)のクローニングと機能解析に成功しました(詳細はこちら)。

●常温性藍色細菌Synechococcus sp. strain PCC 7942
 生育温度が30℃の常温性藍色細菌であり、形態的には大きさが1-2×5-10μmの単細胞性桿菌です。ゲノムサイズは大腸菌よりも小さく2.7Mbです。培養が容易であり、相同組換えによる遺伝子操作が極めてに容易かつ高効率で行えるため、分子遺伝学的な研究材料として適しています。最近、「The Joint Genome Institute(JGI)」によってゲノムプロジェクト達成されました(「JGI」ホームページへ)。また最近ゲノムプロジェクトが達成されたSynechococcus sp. strain PCC 6301(詳細はこちら)とは極めて近縁です(ゲノムの一部が逆位になっている違いのみ)。また、生物時計研究においては、生物時計を持つ最もシンプルな生物です。近藤(名大・生命理学)と石浦はSynechococcus sp. strain PCC 7942において生物発光リアルタイム測定法を開発し(詳細はこちら)、生物発光を活用したリズム変異体の網羅的分離と原因遺伝子の網羅的クローニングから時計遺伝子遺伝子クラスターkaiABCをクローニングし、時計遺伝子発現の正と負のフィードバックがリズム発振に重要であることを証明しました(詳細はこちら)。さらに、時計関連遺伝子pexsasAもクローニングしました。

常温性藍色細菌Synechocystis sp. strain PCC 6803
 生育温度が30℃の常温性藍色細菌であり、形態的には直径が2μmの単細胞性球菌です。全ゲノム塩基配列が決定された4番目の生物であり、「かずさDNA研究所」によってゲノムプロジェクトが達成されました(「かずさDNA研究所」ホームページへ)。ゲノムサイズはSynechococcus sp. strain PCC 7942よりも大きくは3.1Mbです。培養が容易であり、相同組換えによる遺伝子操作が極めてに容易かつ高効率で行えるため、分子遺伝学的な研究材料として適しています。Synechococcus sp. strain PCC 7942と同様に時計遺伝クラスターkaiABCを持っていますが、kaiB遺伝子とkaiC遺伝子がそれぞれ3コピーずつ存在しています。我々はSynechocystis sp. strain PCC 6803においても生物発光リアルタイム測定系を確立することに成功しています。我々は時計遺伝子クラスターkaiABCの機能の本質を明らかにするため、Synechocystis sp. strain PCC 6803とSynechococcus sp. strain PCC 7942およびThermosynechococcus elongatus BP-1の時計遺伝子の比較解析を進めています。

好熱性藍色細菌Thermosynechococcus elongatus BP-1

 大分県の別府温泉で発見された藍色細菌であり、至適生育温度は57℃です。形態的には大きさが1-2×5-10μmの単細胞性桿菌です。ゲノムサイズは2.7Mbであり、Synechococcus sp. strain PCC 7942とほぼ同じです。和歌山県産のThermosynechococcus vulcanusは極めて近縁種であり、塩基配列レベルでほとんど同じです。これらの好熱性藍色細菌のタンパク質は熱安定性が高く、生化学的研究やX線結晶構造学的な研究材料として利用されてきました。特に、高等植物と同じ仕組みの光合成を行うことから、光合成の研究で大きな成果をもたらしています。例えば、光化学系IIのはThermosynechococcus elongatusのタンパク質を用いて達成されました。しかし、遺伝子移入法などの分子遺伝学的な技術がほとんど開発されていませんでした。我々は遺伝子移入法や発光レポーター系などの分子遺伝学的な実験技術を開発しました。また、「かずさDNA研究所」でThermosynechococcus elongatusのゲノムプロジェクトが達成されました(「かずさDNA研究所」ホームページへ)。これらの環境が整ったことで、Thermosynechococcus elongatusは生物時計の研究を生化学・X線結晶構造学と分子遺伝学・ゲノム学を融合して行うことのできる「理想的な実験材料」となりました。耐熱性バクテリアルシフェラーゼ遺伝子を発光レポーターに用いた概日リズムのリアルタイム測定系の開発に成功し、世界で初めて好熱性生物種が生物時計を持つことを証明しました(詳細はこちら)。また、Thermosynechococcus elongatusは、Synechococcus sp. strain PCC 7942と同様に時計遺伝子クラスターkaiABCを持ち、これが生物時計として機能していることも明らかにしました。Thermosynechococcus elongatusの時計タンパク質KaiCを用いて、世界で初めて時計タンパク質の立体構造を電子顕微鏡観察することに成功しました。さらに、時計タンパク質KaiAとkaiBそれぞれのX線結晶構造解析に成功し、構造―機能相関を明らかにすることに成功しました


クラミドモナス Chlamydomonas reinhardtii

 クラミドモナスは単細胞性の真核藻類です。分子遺伝学的実験に非常に適しており「緑の酵母」とも呼ばれます。細胞内に核と葉緑体をひとつずつ、数個のミトコンドリアを持ち、2本の鞭毛を使って水中を泳ぎます。クラミドモナスもやはり生物時計(概日時計)を持っており、それに従って規則正しい生活リズムを刻みます。夜明け前、光合成関連遺伝子の発現をオンにし光合成の準備をします。夜が明けると走光性のスイッチをオンにし日光の当たる場所へ向かい光合成を行います。夜には光合成関連遺伝子と走光性をオフにし、今度は走化性のスイッチをオンにすることでより栄養源の多い場所に向かいます。また細胞分裂を行おうとしている細胞は紫外線の少ない夜の間にDNA合成・有糸分裂を行います。このほかにもいろいろな現象にリズムが観られることが知られています。(クラミドモナスを使った研究の詳細はこちら



生物発光リアルタイム測定法」とは?

 「生物発光リアルタイム測定法」とは、着目する遺伝子の発現を生物発光レポーター遺伝子発現の生物発光として生きたままの細胞で連続的に自動測定する手法です(左の図参照)。
目的遺伝子のプロモーターと生物発光遺伝子(例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子lucやバクテリアルシフェラーゼ遺伝子セットluxAB)を接続して発光レポーター遺伝子カセットを作製し、これを生物のゲノムへ遺伝子移入して発光レポーター株を作製します。発光レポーター遺伝子カセットから目的遺伝子のプロモーター活性によって発光遺伝子のmRNAが合成され、発光タンパク質が翻訳されます。発光レポーター株に発光基質(D-luciferinやn-decanal)を投与すると、細胞内に拡散した発光基質と発光タンパク質の酵素反応によって生物発光が発生します。この生物発光は、肉眼で見ることができないほど微弱なので、光電子増倍管や高感度CCDカメラをデバイスとして搭載した高感度な生物発光測定装置で検出します。検出された生物発光の強度は、数値データとして定量化できます。この発光データ(数値データ)を解析することで、目的遺伝子の発現を定量的にモニタできます。発光タンパク質の半減期は2時間以内であり非常に短いので、遺伝子発現の変化をほとんどタイムラグ無しに生物発光量の変化としてモニタすることができます(詳細はこちら)。
 「生物発光リアルタイム測定法」には他の実験手法では実現不可能な多くの利点を持っています。(1)測定を全自動化することが可能であり長期間の連続自動測定ができる、(2)細胞を破砕する必要が無いので、細胞に何ら影響を及ぼすことなく生理学的な条件下で測定を行うことができる、(3)極めて高感度である(ノザン解析で検出できない遺伝子発現やRT-PCR法で正確に定量できない遺伝子発現を正確に測定できる)(詳細はこちら)、(4)極めて高精度(6桁以上の広いダイナミックレンジ)かつ定量的である、(5)時間分解能が極めて高い。これらの利点により、極めて詳細な遺伝子発現のリアルタイム解析が可能です。また、「生物発光リアルタイム測定法」をハイスループット化することで(詳細は次項参照)、有用生物株や医薬品の大規模スクリーニング法としても極めて有効に利用することができます。例えば、任意の遺伝子の発現レベルや発現パターンが目的に叶った変異体(有用株)を上記の利点そのままに自動的にスクリーニングすることができます。指標となる鍵遺伝子の発現をモニタすることで、医薬品のスクリーニングや、薬の効果あるいは副作用の詳細な解析にも応用可能です。既存のスクリーニング法は、試料の煩雑な前処理が必要であり(例えばRNAやタンパク質の抽出など)、アッセイ法が確立していない形質に関しては全く無力です。我々は「生物発光リアルタイム測定法」を「人工的な時計の針」として生物の概日リズムの測定に活用しています。



測定装置
生物発光リアルタイム測定・スクリーニングシステム



 「生物発光リアルタイム測定法」を自動化・ハイスループット化するために、我々は「生物発光リアルタイム測定・スクリーニングシステム」を開発しました(左の図参照)。このシステムは、1台の「平板型試料交換機付生物発光測定装置」、3台の「巡回型試料交換機付生物発光測定装置」、「生物発光リアルタイムモニタリング・解析プログラムRAP」から構成されます。「生物発光測定装置」は生物を均一な条件下で培養しつつ一定時間間隔で生物発光を全自動測定します。測定データは生物発光「生物発光リアルタイムモニタリング・解析プログラムRAP」へ転送され、リアルタイムに視覚化と解析が行われます。「平板型試料交換機付生物発光測定装置」は1,920試料を一度の実験で、「巡回型試料交換機付生物発光測定装置」は1台につき960試料を一度の実験で、それぞれ測定することができます。装置を全てを稼働すれば、一度実験で独立の4,800試料の生物発光を全自動測定することが可能です。我々はこのシステムを活用して、高精度なリズム測定やリズム変異体の網羅的スクリーニングを行っています。


植物就眠運動リズム自動測定システム

 高等植物の葉の上下運動(就眠運動)が概日リズムを示すことが昔から知られています。高等植物の概日リズムで最もよく知られてる現象です。日中は葉の位置を上げて光を受けやすくし、夜間は葉を下げている様子が比較的大きな植物であれば肉眼でも簡単に分かります。このリズムは「就眠運動リズム」と呼ばれ、生物時計によって厳密に制御されています。「就眠運動リズム」はシロイヌナズナにおいても観察することができます(シロイヌナズナの就眠運動の動画はこちら)。しかし、植物体が小さいため、運動を定量化することは容易ではありません。我々は「就眠運動リズム」を高精度かつ全自動で測定するシステムを開発しました(左の図参照、システムの詳細はこちら)。このシステムは照明付き恒温器に入れた撮影装置、撮影画像を記録・解析するためのモニタリング・解析パソコンから構成されています。撮影装置に設置した試料チェンバーの中に培地とともにシロイヌナズナの芽生えを入れて光照射下で培養しつつ、CCDカメラで植物体の姿を一定時間間隔で撮影します。撮影した画像から葉の先端位置を自動検出して座標数値として記録し、この座標の変化を連続的に追跡することで「就眠運動リズム」を測定することができます。モニタリング・解析パソコンには、我々が開発した2つのプログラム「NKCAP」と「NKTRACE」が組み込まれています。「NKCAP」は植物体の画像を自動取込・記録するプログラムであり、「NKTRACE」は撮影画像から葉の先端位置を自動検出し、その座標を数値化して運動軌跡を追跡する画像解析プログラムです。「NKCAP」と「NKTRACE」は学術目的の使用に限り無償配布しています。



タンパク質の立体構造
 
藍色細菌の生物時計は、KaiA、KaiB、KaiCの3つのタンパク質から構成されています(Ishiura et al., 1998)。これら3つのタンパク質を混ぜ合わせ、エネルギー源としてATPを加えてやることで、試験管内で24時間周期のリズムを再現することができます。当研究室では、リズム発振の分子メカニズムを明らかにするために、これらの時計タンパク質の構造解析を進めています。

KaiC
 KaiCは、約60 kDaのタンパク質で、KaiA、KaiB、KaiCの3つのタンパク質の中では最大です。私たちは、2003年、KaiCの構造を電子顕微鏡によって観察することに成功しました(Hayashi et al., 2003)。KaiCはダンベル型の6つのサブユニットが6量体を作り、リング状の構造をとっています。






KaiA
KaiAの結晶 KaiAのイメージ  KaiAの構造は、X線結晶構造解析によって明らかにしました。X線結晶構造解析とは、X線が結晶格子によって回折される現象を利用して、X線回折の結果を解析することによって、結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定する手法です。KaiAは、約32 kDaのたんぱく質です。KaiAは多くの藍色細菌において高い相同性をもって保存されていますが、特にアミノ酸配列の保存性が高いのは、C末端部分の配列です。私たちは、遺伝学的解析により、時計の発振にかかわるのはC末端ドメインであることが明らかにしました。2004年、KaiAのC末端ドメインタンパク質の結晶を作製し、X線による構造解析に成功しました(Uzumaki et al., 2004)。KaiAのC末端ドメインタンパク質は2量体構造をとり、それぞれ6つのへリックス構造からなっています。




KaiB
KaiBの結晶 KaiBのイメージ  KaiBは3つのタンパク質の中で最小の約12 kDaのタンパク質です。2005年に、KaiBのX線結晶構造解析により、その立体構造を明らかにしました(Iwase et al., 2005)。KaiBは4量体を形成し、片方の面の中央部に酸性残基が集中して存在し尾根状の構造をとっています。また、くぼみ部分には塩基性残基が集まっています。遺伝学的解析から、これらの酸性/塩基性の構造がリズムを正常に維持するために必要であることが判明しました。




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