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クラミドモナスとは

 クラミドモナスは単細胞性の緑藻の一種です。身近な池や川などでごく普通に見られる生物です。細胞の大きさは約10マイクロメートルぐらいで、鞭毛、核、葉緑体、ミトコンドリア、眼点などから成るシンプルな生物です。効率よく光合成を行うために、眼点で光の来る方向を認識し、鞭毛を使って光に向かって泳ぎます。
クラミドモナス  

実験モデル生物としてのクラミドモナス

 クラミドモナスは、1)シンプルな単細性の真核生物であること、2)増殖が早いこと、3)雌雄の区別があり遺伝学的解析が可能なことなどから、優れた実験モデル生物である酵母に例えて「Green yeast(緑の酵母)」とも呼ばれます。酵母でできる実験は酵母でやればよいわけですから、クラミドモナスは「酵母ではできない研究」において最も力を発揮するモデル生物と言えます。たとえば、葉緑体(光合成)や鞭毛の研究がそれに当たります。モデル生物としての有用性から、全ゲノム配列も解読されました。分子生物学・分子遺伝学・細胞生物学的実験のツールも整いつつあり、今後さらに多くの研究者に利用されるモデル生物になるに違いありません。

クラミドモナスの生物時計研究

 クラミドモナスは比較的古くから生物時計の研究に利用されてきました。1970年代の前半、ショウジョウバエやアカパンカビでリズム変異体が単離され時計遺伝子の存在が示唆され始めた頃、クラミドモナスでも走光性の概日リズムを指標にリズム変異体がいくつか単離されました(Bruce VG; Genetics 1972)。その後もいくつかのリズム変異体が単離されたのですが、残念ながら今日に至るまで原因遺伝子は突き止められていません。
 1980年代後半にショウジョウバエやアカパンカビで時計遺伝子がクローニングされて以降、哺乳類、高等植物、藍色細菌でも時計遺伝子がクローニングされ、クラミドモナスは時計遺伝子の研究に関しては完全に遅れをとってしまう結果になりました。しかし、生物時計の生理学的な知見はその間も着実に蓄積し、走光性以外にも走化性、細胞分裂、細胞表面の性質、核および葉緑体ゲノムの遺伝子発現、紫外線感受性、雌雄の接合活性などに概日リズムが観られることがわかってきました。また、ドイツのスペースラボミッションD1において、クラミドモナスは宇宙に送られ、宇宙でも生物時計が動き続けることを実証することに貢献しました。

クラミドモナスで生物時計研究を行う理由

 酵母は優れた実験モデル生物ですが、少なくとも現時点では概日リズムが観察された例はありません。よって、生物時計の研究は「酵母ではできない研究」です。そうなるとクラミドモナスの出番なのですが、実際にはほかのモデル生物に大きな遅れをとってしまっているのが現状です。しかし、我々はまだ遅くないと考えています。いったん実験系が確立すればクラミドモナスの生物時計研究は一気に加速すると考えています。ただし、“シンプルさ”に関してはすでに生物時計のモデル生物として確立されている原核生物の藍色細菌にはかないませんので、クラミドモナスは生物時計研究において最もシンプルな真核生物と言えるでしょう。真核細胞内でいかにして時が刻まれ、さらにそれがいかにして様々な生命現象に反映されるのかを分子レベルで詳細に解析できる実験系になるに違いありません。とりわけ、クラミドモナスは核・葉緑体・ミトコンドリアのいずれのゲノムも形質転換をすることが可能な現時点では唯一の生物です。この性質を利用して各ゲノムにレポーター遺伝子を入れることで、生物時計が細胞内の3ゲノムをコントロールする仕組みやそれらのゲノム間における時間情報のやりとり(クロストーク)を解析できるユニークな実験系を作ることが可能です。
 また、クラミドモナスは進化的な観点からも興味深い生物です。時計遺伝子はこれまでに発見された生物種(動物、高等植物、菌類、藍色細菌)の間で保存されていません。緑藻は高等植物の祖先であったとされ、また緑藻の葉緑体の起源は細胞内に共生した藍色細菌であると考えられています。一方で、鞭毛や動物型のトランスポーターを持つなど、動物的な側面も持っています。クラミドモナスの時計遺伝子を研究することで、生物時計の進化に関する重要な知見が得られるかもしれません。

「光る葉緑体」、葉緑体生物発光レポーター株

 我々のグループではクラミドモナスの葉緑体ゲノムにホタルのルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ“葉緑体発光レポーター株”を作製しました。葉緑体の遺伝子発現は生物時計によって制御されますので、発光レポーター株の発光の強さは生物時計の活性に伴って日周変動します。このレポーターを使って、葉緑体の遺伝子発現は間違いなく生物時計の制御下にあることを証明し、さらにその生物時計は核ゲノムにコードされていることを明らかにしました。
 この研究に関する論文はこちら
レポーター   クラミドモナス写真


クラミドモナスの時計遺伝子

 最近、我々のグループは遺伝子タギング法により葉緑体発光レポーターのリズムが異常になる変異体を多数単離し、それらの変異体の原因遺伝子を約30個同定することに成功しました。そのうちの6個は生物時計に極めて重要な遺伝子、すなわちクラミドモナスの時計遺伝子であることを突き止めました。それらの遺伝子の特徴から、クラミドモナスの生物時計は「植物の時計に似た部品」と「緑藻独自の部品」から成るハイブリッド型の時計であることがわかりました。また、生物時計自体は壊れていないが葉緑体のリズムがおかしくなっている変異体がいることも確認しました。これは生物時計が葉緑体を制御するために必要な遺伝子であると考えられます。この研究で発見した遺伝子群は葉緑体のリズムに重要であることからRhythm of Chloroplast (ROC)と命名し、現在精力的に解析を進めています。
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変異株時計たんぱく質

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